千葉大学大学院医学研究院の顧文超特任准教授、復旦大学附属華山医院の莫少聡氏らの研究チームは、胃がん組織における腫瘍微小環境(TME)の空間的構造が、がんの進行および免疫療法への抵抗性にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、マウスおよびヒト胃がんの空間トランスクリプトーム解析に取り組みました。その結果、胃がんの組織内に「危険領域(Danger Zone)」が存在することを発見しました。この領域ではCCDC80陽性線維芽細胞ががんを攻撃する免疫細胞(CD8陽性T細胞)を捕らえて働きを弱め、免疫療法の効果を妨げていることが分かりました。今回の研究成果は、免疫療法が効きにくい胃がん患者の見分け方や、新たな治療法の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2026年3月7日に学術誌Apoptosisで公開されました。
研究の背景 胃がんではTMEのばらつきが、治療の効きにくさや予後の悪さと深く関連しています。近年、技術の発展により、TMEの細胞構成や機能的特性の理解は進みましたが、腫瘍のどの場所がどのように免疫の働きを抑え、がんの進行を促しているかは十分に解明されていませんでした。そこで本研究では、マウスおよびヒト胃がん組織の空間トランスクリプトーム解析を用いて、腫瘍進行に関わる空間的構造の特定とその分子機構の解明に取り組みました。
研究成果のポイント 1. 「危険領域」の発見:空間トランスクリプトーム解析により、胃がん組織において「Danger Zone」と呼ばれる特異的な空間構造を同定しました。この領域はびまん型胃がんに多く認められ、進行期胃がんおよび免疫抑制的TMEと強く関連していました。 2. 患者層別化と予後予測:危険領域の遺伝子発現パターンにより、胃がん患者を2つのタイプに層別化したところ、1つのタイプは予後不良かつ免疫療法への応答性が低いことが示されました。さらに、機械学習アルゴリズムのXGBoostモデルにより、複数の患者において胃がんのタイプおよび予後の正確な予測が可能となりました。 3. 免疫抑制機構の解明:危険領域内のCCDC80陽性線維芽細胞がCXCL12-CXCR4シグナル経路を介しCD8陽性T細胞を包み込んで隔離することで、T細胞の表面にある抑制受容体(ブレーキ)PD-1とTIM-3の発現が顕著に上昇してT細胞の機能を阻害することを、本研究により実証しました。 4. H&E画像からの予測モデル:H&E画像を見るだけで、病気の進行リスクが高い領域をAI(LightGBM)が予測できるモデルを作りました。
今後の展望 本研究成果により、胃がんにおける免疫抑制の空間的メカニズムの理解が大きく前進しました。今後は、CCDC80陽性線維芽細胞やCXCL12-CXCR4シグナル経路を標的とした新規治療戦略の開発、ならびにH&E画像ベースの危険領域スコアの臨床応用に向けた前向きコホート研究による検証を推進してまいります。
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:調査
- 製品・サービス:空間トランスクリプトーム解析 / XGBoostモデル