【研究のポイント】
本来キチンを認識して結合するタンパク質「PfChBD2」を改変し、プラスチック表面を認識する性質を持たせました。
主要指標 — KEY FIGURES
PETへの結合性を向上させ、キチンやセルロースへの結合を大幅に低減した変異体を取得しました。
駿河湾から採取したマイクロプラスチックを蛍光染色することに成功しました。
マイクロプラスチックの簡便な検出への応用が期待されます。
【研究概要】
静岡大学大学院自然科学系教育部バイオサイエンス専攻の橋野嘉仁(博士課程2年)、静岡大学農学部・グリーン科学技術研究所の中村彰彦教授、東海大学の広瀬慎美子教授(現所属:国立科学博物館)は共同で、本来キチン(注1)を認識するタンパク質「PfChBD2」を改変し、プラスチック表面を認識してマイクロプラスチック(注2)を蛍光染色できるタンパク質の開発に成功しました。
本研究では、PfChBD2の表面にランダムにアミノ酸変異を導入し、ファージディスプレイ法(注3)を用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)に結合する変異体を選抜しました。最初の選抜では、野生型と比べてPET表面への最大結合量が約2倍となり、キチンへの結合が大きく低下した変異体を取得しました。さらに、キチン認識に重要なアミノ酸を追加で改変及び選抜することで、PETへの結合性を維持しながら、キチンやセルロース(注4)への結合を大幅に低減した複数の変異体を得ました。
なかでも「VFF」と名付けた変異体は、PETへの比較的高い結合性と、キチン・セルロースへの極めて低い結合性を示しました。また、VFF変異体はPETだけでなく、他のプラスチックにも結合を示しました。さらに、VFFと赤色蛍光タンパク質(注5)を融合させたタンパク質を用いることで、駿河湾から採取したポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンのマイクロプラスチックを蛍光染色できました。
本研究は、天然の生体高分子を認識するタンパク質の結合特性を、人工高分子であるプラスチックの認識へと改変できることを示したものです。
なお、本研究成果は、2026年8月17日に国際学術誌「ACS Synthetic Biology」に掲載されました。
【研究背景】
マイクロプラスチックは、海洋、土壌、大気など、さまざまな環境から検出されています。現在は赤外分光法やラマン分光法などによって分析されていますが、環境試料には天然由来の物質も多く含まれるため、簡便かつ選択的な検出法が求められています。そこで本研究では、特定の物質表面を認識するタンパク質を利用し、プラスチックを蛍光標識する方法に着目しました。
【研究の成果】
PETに結合し、天然多糖への結合が低いタンパク質変異体を開発
キチン結合タンパク質PfChBD2の結合面にアミノ酸変異を導入し、ファージディスプレイによってPETに結合する変異体を選抜しました。最初の選抜では、野生型と比べてPET表面への最大結合量が約2倍となり、キチンへの結合が大きく低下した変異体を取得しました。さらに、キチン認識に重要なアミノ酸を追加で改変することで、PETへの結合性を保ちながら、キチンやセルロースへの結合を大幅に低減した複数の変異体を得ました。なかでもVFF変異体は、PETへの比較的高い結合性と、キチンやセルロースへの低い結合性を示しました。
PET以外の合成高分子にも結合
開発したVFF変異体について、PET以外のプラスチックに対する結合性を調べました。その結果、VFF変異体と赤色蛍光タンパク質の融合体は他のプラスチックに対しても結合を示しました。一方、キチンやセルロースへの結合は低く抑えられていました。
駿河湾のマイクロプラスチックを蛍光染色
東海大学の調査船「南十字」による海洋調査において、駿河湾の表層海水からマイクロプラスチックを採取しました。回収したマイクロプラスチックを、VFF変異体と赤色蛍光タンパク質を融合させたタンパク質で処理したところ、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンの粒子を蛍光染色できました。
図:本研究の概要
【今後の展望】
今後は、特定のプラスチック材質をより選択的に認識するタンパク質や、より小さな粒子を高感度に検出できる蛍光プローブの開発を進めます。将来的には、複数のタンパク質プローブを組み合わせることで、環境中のマイクロプラスチックの検出と材質推定を簡便に行う技術への発展が期待されます。
【論文情報】
掲載誌名: ACS Synthetic Biology
論文タイトル: Turning a natural biopolymer-binding protein into a plastic surface-recognizing protein
著者: Yoshihito Hashino, Mamiko Hirose, Akihiko Nakamura
DOI: 10.1021/acssynbio.6c00479
【研究助成】
本研究は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR210C)の助成を受けて実施されました。
【用語説明】
注1:キチン
カニやエビなどの甲殻類の殻、昆虫の外骨格、菌類の細胞壁などに含まれる天然の多糖。
注2:マイクロプラスチック
一般に、大きさが1マイクロメートルから5ミリメートル程度の微小なプラスチック粒子を指す。小さいプラスチックが環境中に流出したものや、流出したプラスチックが細かく砕かれて生じるものなどがある。
注3:ファージディスプレイ法
細菌に感染するウイルスの表面にさまざまなタンパク質を提示し、目的の物質に結合するタンパク質を選抜する方法。
注4:セルロース
植物の細胞壁の主成分で、紙や綿などに多く含まれる天然の多糖。
注5:赤色蛍光タンパク質
赤色の蛍光を発するタンパク質。本研究では、改変したPfChBD2と融合させることで、プラスチック表面への結合を蛍光として観察できるようにした。
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:研究成果