概要
徳島大学先端酵素学研究所の井上啓教授、金沢大学新学術創成研究機構の橋内咲実特任助教、稲葉有香准教授、東京大学大学院理学系研究科の黒田真也教授、杉本光客員研究員(研究当時・東京大学医学系研究科大学院生)らの共同研究グループは、インスリン分泌を調節する仕組みとして、従来知られていた迷走神経の“アクセル”機能に加えて、新たに“ブレーキ”機能も存在することを明らかにしました。
脳は、自律神経を介して、膵臓のインスリン分泌を調節しています。特に、自律神経の一つである迷走神経は、これまでインスリン分泌を促す“アクセル”として働くことが知られていました。しかし、肥満では、迷走神経によるインスリン分泌調節がうまく機能しなくなり、血糖値を適切に調節することができなくなります。一方、肥満でなぜこの調節異常がおこるのか、その仕組みはよくわかっていませんでした。
今回の研究では、迷走神経がインスリン分泌を抑える“ブレーキ”としての働きを持つことを新たに発見しました。さらに、この“ブレーキ”の働きが、肥満で過剰に強まることも明らかにしました。今回発見した「インスリン分泌の“ブレーキ”作用」は、肥満・2型糖尿病の病態理解を深めるとともに、新たな予防法・治療法の開発につながることが期待されます。
本研究の成果は、2026年5月26日午後2時(米国東部標準時)に米国科学振興協会(AAAS)刊行の科学誌『Science Signaling』に掲載されました。
研究の背景
私たちの体内では、食事の際に血糖値が上昇しますが、膵臓からインスリンが分泌されることにより、血糖値が一定に保たれています。このインスリン分泌の調節において、脳と膵臓をつなぐ自律神経である迷走神経が、重要な役割を果たします。特に、迷走神経の代表的な神経伝達物質であるアセチルコリンは、インスリン分泌を促進することが知られています。一方で、肥満や2型糖尿病では、このような迷走神経性のインスリン分泌調節が障害され、耐糖能異常につながることが指摘されています。しかし、肥満でなぜ迷走神経によるインスリン分泌調節が障害されるのか、その詳細な仕組みは明らかではありませんでした。
研究成果の概要
本研究では、迷走神経が、一酸化窒素(NO)を介した「インスリン分泌の“ブレーキ”作用」を有することを明らかにしました。これまでに知られていた、迷走神経が、アセチルコリンを介した「インスリン分泌を促進する作用」に加えて、“アクセル”と“ブレーキ”の両面からインスリン分泌を制御していることを見出しました。
本研究では、薬剤依存的に神経活動を制御できるDREADD技術を用いて作出した迷走神経活性化マウスを用いました。健常マウスでは、迷走神経を活性化するとインスリン分泌が促進しましたが、肥満マウスでは、逆にインスリン分泌が抑制されました。そこで、肥満マウスで認められる迷走神経性インスリン分泌抑制の仕組みを解析しました。
迷走神経は神経伝達物質であるアセチルコリンを介して、インスリン分泌を促進することが知られています。そこで、薬剤によりアセチルコリン作用を阻害した状態で迷走神経を活性化したところ、健常マウスで認められたインスリン分泌促進は消失し、逆にインスリン分泌は抑制されました。この結果から、迷走神経には、アセチルコリンとは別に、インスリン分泌を抑える神経伝達物質が存在する可能性が考えられました。
迷走神経は、アセチルコリンの他に、NOや神経ペプチドなどを神経伝達物質として、脳から膵臓へ情報を伝えます。そこで、それぞれの作用を阻害した状態で解析を行った結果、迷走神経性NOを合成する神経型NO合成酵素 (nNOS) が、インスリン分泌のブレーキとして機能していることを特定しました。
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:調査