概要

主要指標 — KEY FIGURES

15万
世界で約15万種が知られる昆虫
100万
最終的な種数は100万種を超えるとも推定される
7
寄生蜂は極めて小型であるため、野外での発見や記録が難しく、分布や生態の解明は十分に進んでいません。しかし、寄生蜂は害虫の天敵や生物農薬(※2)として重要であるだけでなく、生物多様性を評価する指標としても注目されており、その多様性の解明は重要な課題となっています。特にカマキリの卵嚢に寄生するハチ類は国内外ともに記録が限られており、日本ではほとんど知られていませんでした。
1,000
Eupelmus 属は約1,000種が知られる大きなグループですが

・本研究では、SNSに投稿された観察写真をきっかけに、中国で1例のみしか記録がなかった寄生バ

チ Eupelmus curvator(ナガコバチ科)を日本で初めて記録しました。

・寄生蜂の分類学を専門としている九州大学総合研究博物館の河野太祐協力研究員らがSNS上の投稿

情報をもとに詳細な検討を行い、本種がカマキリの卵嚢に寄生することを世界で初めて明らかにし

ました。これにより、日本における本種の初記録とともに、その生態の一端が解明されました。

・本研究は、市民による観察と専門家の連携によって新たな発見が生まれることを示すものであり、

今後の生物他多様性研究において重要な手法となることが期待されます。

論文情報

掲載誌 : Travaux du Muséum National d’Histoire Naturelle “Grigore Antipa”

題名  : When your posts yield biodiversity findings: social media-facilitated discovery of        Eupelmus (Eupelmus) curvator Yang (Hymenoptera, Eupelmidae) in Japan with        notes on its bionomics

(和訳:SNS投稿が生物多様性の発見をもたらす:ソーシャルメディアを介した寄生バ

チ Eupelmus (Eupelmus) curvator (ハチ目:ナガコバチ科)の日本における発見と

その生態に関する知見)

著者名 : Taisuke Kawano, Shunsuke Imada, Shogo Noguchi and Kanji Toyosaki

DOI  : 10.3897/travaux.69.e171809

研究の背景と経緯

ハチ目は世界で約15万種が知られる昆虫ですが、まだ発見されていない種が数多く存在し、最終的

な種数は100万種を超えるとも推定される、極めて多様なグループです。ハチといえばミツバチやス

ズメバチがよく知られていますが、実際には体長数ミリの小さな寄生蜂(※1)がその約7割を占め

るとされています。これらの寄生蜂は極めて小型であるため、野外での発見や記録が難しく、分布や

生態の解明は十分に進んでいません。しかし、寄生蜂は害虫の天敵や生物農薬(※2)として重要で

あるだけでなく、生物多様性を評価する指標としても注目されており、その多様性の解明は重要な課

題となっています。特にカマキリの卵嚢に寄生するハチ類は国内外ともに記録が限られており、日本

ではほとんど知られていませんでした。

近年、SNSの普及により、一般の観察者が撮影した生物の写真や動画が広く共有されるようになり

ました。これにより、研究者が通常調査できない場所や時期の観察記録が蓄積されつつあります。

2021年春、九州大学大学院システム生命科学府修士課程の野口奨悟氏(当時:九州大学農学部学

部生)は、九州大学伊都キャンパスにおいてチョウセンカマキリの卵嚢に産卵するナガコバチ科の動

画と画像をSNS(旧Twitter、現X)に投稿しました。この投稿に、寄生蜂の分類を専門とする九州大

学総合研究博物館の河野太祐協力研究員が注目しました。

カマキリ卵嚢に寄生するナガコバチ科の観察例は極めて少ないため、河野研究員はSNS上で情報提

供を呼びかけました。その結果、2017年および2018年に神奈川県の公園で作家のとよさきかんじ氏

(日本野虫の会)によって撮影された同様のハチの記録が寄せられたほか、滋賀県立琵琶湖博物館の

今田舜介学芸員(当時:九州大学大学院生物資源環境科学府院生)によって福岡市の離島・能古島か

2021年の春に得られた標本も提供されました。

研究の内容と成果

提供された標本およびSNS上の写真を精査した結果、これらのハチは中国・陝西省からわずか数個

体のみが知られていたナガコバチの一種 Eupelmus curvator(ユーペルムス・カーバトール)(参

考図)であることが明らかになりました。つまり本種の日本初記録であり、日本は世界で2番目に本

種が確認された国となります。本種は中国ではコウチュウ目のキクイムシ(※3)の寄生者であると

記録されていましたが、日本ではこれまでのところカマキリ目のチョウセンカマキリの卵嚢のみに寄

生していることが確認されました。このことから、本種が異なる昆虫の「目」(※4)をまたいで寄

生する可能性が示されました。

一般に、カマキリの卵に寄生するコバチはオナガコバチ科やナガコバチ科の Anastatus 属などが

知られています。一方で、Eupelmus 属は主に他の昆虫の幼虫や蛹に寄生するグループであり、卵に

寄生する例は極めてまれです。

Eupelmus 属は約1,000種が知られる大きなグループですが、カマキリの卵嚢に寄生する種は本種

を含めてもわずか5種しか報告されておらず、その多くは偶発的な記録と考えられています。一方

で、本種は別々の地域で複数回にわたってカマキリ卵嚢に寄生することが確認され、カマキリ卵を主

要な寄主(※5)として利用している可能性が高いことがわかりました。このことから、本種はEup

elmus属の中でもきわめて特異な生態をもつ種であるといえます。

さらに、本研究では九州大学伊都キャンパスで撮影された動画をもとに、産卵行動の詳細も明らか

にしました。

左 :Eupelmus curvator、メス kawano et al.(2026)より(スケールバーは1mm)

中央:Eupelmus curvator、オス Kawano et al.(2026)より(スケールバーは1mm)

右 :発見のきっかけとなったTwitter(現X)の投稿

今後の展開

近年、カメラ機材の小型化・高性能化や撮影技術の普及により、アマチュアのカメラマンであって

も体長数ミリ程度の小さな昆虫を驚くほど高精細に記録できる環境が整いつつあります。さらにSNS

の普及により、こうした観察記録が広く共有されることで、専門家以外の観察者による情報が生物多

様性研究に活用される機会が急速に増えています。このような動きは世界的にも広がっており、SNS

上の投稿をきっかけとして新種の発見や分布記録の更新につながった事例が報告されています。日本

においても、ホシガタハラボソコマユバチ Meteorus stellatus や、SNSに由来する名称をもつチョ

ウシハマベダニ Ameronothrus twitter、イワドハマベダニ Ameronothrus retweet などがSNSの

投稿がきっかけで発見された種であり、市民による観察と専門家の連携が新たな知見の創出に寄与

し、新しい市民科学のトレンドになりつつあります。

本研究は、SNSを通じた観察情報が新たな発見につながることを示した事例であり、こうした「観

察する目」がSNSを通して増えることが、これまで見過ごされてきた昆虫の多様性の解明を大きく前

進させる一つの手法であると期待されます。

今回の発見は、都市部の公園や大学のキャンパスでなされました。このような身近な場所であって

も、足元にはなお多くの未知の生物が存在していることを示しています。重要なのは、それらの存在

そのものだけでなく、「どのようにして見つけるか」という点が大きく変化していることです。

今後は、本種の分布域や寄主範囲、生活史の詳細を明らかにする必要があります。特に、中国では

コウチュウ類からのみ記録されていた本種が、日本ではカマキリの卵からのみ確認されていることか

ら、寄主の選択の幅や地域による生態の違いについての検証が求められます。また、現在の国内記録

は福岡県と神奈川県に限られているため、他地域での分布調査も重要な課題です。

研究者からのコメント

「SNS上の何気ない投稿が、思いがけない科学的新発見につながることがあります。今回の研究

は、市民の観察と専門家の連携によって新たな知見が得られることを示しました。身近な環境の中に

も、まだ知られていない生物多様性が数多く存在していると考えています。あなたの投稿も科学の常

識を大きく変えるきっかけになるかもしれません!」(九州大学総合研究博物館 河野太祐協力研究

員)

「滋賀県では本種はまだ未発見ですが、これからきっと見つかると思います。皆さまからの発見のご

連絡をお待ちしています」(滋賀県立琵琶湖博物館 今田舜介学芸員)

用語解説

(※1) 寄生蜂

・ハチの仲間のうち、他の昆虫などに産卵し、その体内や体表で幼虫が成長するグループ。寄生され

る生物は「寄主」と呼ばれる。幼虫は寄主を食べて成長し、最終的に寄主を死亡させることが多

い。このような生き方は「捕食寄生」と呼ばれ、自然界では個体数のバランスを保つ役割を担って

おり、農業では害虫防除にも利用されている。

(※2) 生物農薬

・農業や林業において、害虫や病害を抑えるために利用される天敵生物や微生物などの資材。化学農

薬に比べて環境への負荷が小さく、安全性が高いとされ、持続的な害虫管理に利用されている。

(※3) キクイムシ

・コウチュウ目ゾウムシ科キクイムシ亜科に属する昆虫。樹木の内部に穴をあけて生活し、共生する

微生物の働きによって木材を分解して利用する。大発生すると森林に被害を与えることがある。

(※4) 目(もく)

・生物分類学における分類階級の一つで、科(か)より上、綱(こう)より下に位置する。同じ目に

属する生物は、共通の形態的特徴や進化的起源を持つ。

(※5) 寄主(きしゅ)

・寄生蜂(※1)の解説を参照。

その他

本資料提供は、共同で実施した下記機関・団体との同時プレスです。

(本種の発見について)

滋賀県立琵琶湖博物館

学芸員 今田舜介

Tel : 077-568-4811 Fax : 077-568-4850

(今回の論文の内容について)

九州大学大学院 システム生命科学府 生物科学講座

教授 立田晴記

Tel & Fax : 092-802-4275

Mail : [email protected]

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR TIMES
  • 分類:科学研究
  • 関連組織:日本野虫の会