千葉大学先進科学センターの深川弘彦 特任教授らの共同研究チームは、次世代の太陽電池として期待される有機薄膜太陽電池(OPV)(注1)において、分子が自発的に並ぶことで生じる自発配向分極(SOP)(注2)が及ぼす作用の二面性を解明しました。SOPの影響を他の要因から切り分けて評価できる独自の平面接合型モデル素子を構築して検証した結果、SOPの内部電場によって電荷分離が促進される一方、SOP層を厚くすると界面に正孔が蓄積して励起子(注3)の失活が性能損失につながることを明らかにしました(図)。本成果は、OPV内の適切な場所に適切な大きさのSOP層を配置することが重要であることを示すもので、有機半導体を用いたOPV高性能化の新たな設計指針につながります。

本研究成果は、2026年9月17日に、国際学術誌Advanced Optical Materialsに掲載されました。

(論文はこちら:10.1002/adom.71807)

図1:SOP層の空間配置と有機太陽電池の発電性能。界面に極薄のSOP層を配置すると内部電場によって電荷分離が促進され、発電性能が向上する(a)。一方、SOP層を厚くすると界面に正孔が蓄積し、励起子の失活によって発電性能が低下する(b)。

研究の背景(詳細は別添参照)

主要指標 — KEY FIGURES

0.47から0.77
フィルファクター(FF)が0.47から0.77まで大きく向上しました
2026年9月17日
2026年9月17日に

OPVの高性能化には、ドナー/アクセプター(D/A)界面(注4)での効率的な電荷分離と、再結合や失活の抑制が鍵となります。近年、極性をもつ有機分子が自発的に配向して生じるSOPが注目されています。有機EL分野では、界面への電荷蓄積や励起子消光(励起子-ポーラロン消光(注5)に類似した過程)参考文献)を引き起こす要因とされるSOPですが、電荷分離を補助する効果は未解明でした。一般的な高性能OPVでは複雑な接合構造が用いられるため、SOP単独の影響を切り分けることが困難だったためです。そこで本研究では、構造が単純な平面接合型素子を用い、SOPそのものの効果を選択的に調べました。

研究成果のポイント(詳細は別添参照)

1)SOPだけを選択的に比較できる系の設計:骨格と電子親和力ほぼ同等で、SOPの大きさが異なるM2PTとM4PTをアクセプターに用い、内部電場が発電特性に及ぼす影響を評価できるモデル系を構築しました。

2)SOP層をD/A界面に配置すると電荷分離を促進:大きなSOPを示す極薄のM4PT層をD/A界面に配置するとフィルファクター(FF)が0.47から0.77まで大きく向上しました。

3)SOP層の厚膜化による電荷蓄積: M4PT層を厚くすると、膜厚内の電位差が大きくなり、低い電圧からドナー/M4PT界面に正孔が蓄積することを変異電流(DCM)測定(注6)により解明し、この蓄積正孔が「励起子–ポーラロン消光」に類似した過程を引き起こし、性能低下につながることが示唆されました。

本研究は、「ただ強い電場」ではなく「電場の適切な空間配置」という新たな設計軸を加えるものです。

今後の展望(研究者コメント)

今後は一般的なOPV同様の複雑な混合型光電変換層で本指針の汎用性を検証します。将来的には分子配向が自発的につくる内部電場を積極的に設計することで、電荷分離と電荷回収を高効率化し、有機太陽電池や有機光検出器などの有機光電デバイスの性能向上につながることが期待されます。

用語解説

注1)有機薄膜太陽電池(OPV):有機半導体を用いて光を電気に変換する太陽電池。薄型・軽量で、柔軟な基板にも作製できる。

注2)自発配向分極(SOP):極性をもつ有機分子が薄膜形成時に一定方向へ自発的に配向することで生じる分極。膜厚方向に表面電位が変化し、薄膜内部に電場を形成する。

注3)励起子・CT状態:光を吸収すると生じる、電子と正孔が互いに引き合った状態。ドナー/アクセプター界面では、電子と正孔が別々の分子上に存在する電荷移動(CT)状態が形成される。

注4)ドナー/アクセプター(D/A)界面:光励起で生じた電子を与える材料(ドナー)と、電子を受け取る材料(アクセプター)の境界。OPVでは、この界面で電荷移動状態が形成され、電子と正孔への分離が進む。

注5)励起子-ポーラロン消光(EPQ):励起子が、蓄積した電荷(ポーラロン)と相互作用することで非放射的に失活する現象。発光デバイスなどで損失要因として知られている。

注6)変位電流測定(DCM):素子に時間変化する電圧を加えた際に流れる変位電流を測定し、実電流が流れ始める前のキャリア注入や界面電荷蓄積を検出する手法。

論文情報

タイトル:Spatial Control of Spontaneous Orientation Polarization for Efficient Charge Separation in Organic Photovoltaics

著者:Seita Kyogoku, Haruto Jibiki, Masahiro Ohara, Taku Oono, Takahisa Shimizu, Takeshi Okada, Nobumichi Arai, Hiroyuki Yoshida, Hisao Ishii, Hirohiko Fukagawa

雑誌名:Advanced Optical Materials

DOI:10.1002/adom.71807

参考文献)

タイトル:Sub–turn-on exciton quenching due to molecular orientation and polarization in organic light-emitting devices

DOI:10.1126/sciadv.abb2659

添付資料はこちら

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FACT BOX ・ 要点整理

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