東京都は、大企業等の民間企業で培われた技術・ノウハウ・アイデアを起業や新事業創出につなげるプロジェクト事業「GEMStartup TOKYO」のキックオフイベントをTokyo Innovation Base(TIB)にて開催いたしました。当日は会場とオンラインを合わせて150名を超える挑戦者や支援者が集い、熱気溢れる雰囲気の中で実践知が共有されました。企業内からの新事業創出に情熱を注ぐ挑戦者たちが一堂に会した、熱い当日の様子をコラムでお伝えします。

【基調講演コラム】「頭脳の革命」に挑む大企業のイノベーターたちへ

生成AIが急速に進化し、ホワイトカラーの仕事が自動化される現代において、大企業に属しながら新規事業を探索する意義はどこにあるのでしょうか。 外資系コンサルティングファームを経て日米で5社を起業したシリアルアントレプレナーの田所雅之氏(株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO)は、現在の大きな変化を「頭脳の革命」と位置づけ、既存キャリアに強い警鐘を鳴らします。激変する時代に陳腐化しない確固たる実力を身につけるための本質的なアクションを紐解きます。

1. タイミングを見極め、「少し先の不足」を狙い撃つ

田所氏は、かつての産業革命が「肉体の革命」であり、機械の導入により人間の体力が解放され暇になったことで19世紀末にスポーツが誕生した歴史を挙げます。そして現在は、AIの台頭による「頭脳の革命」の真っ只中にあります。産業革命以降スポーツが興業として流行したように、頭脳の革命によって「脳にとって負担が心地いいんだが楽しいこと」を人々が求めるようになる可能性があります。このように、現代のAIの台頭によって、人々のニーズは短期間に激変する可能性を帯びています。そんな中、事業創出において最も重要な要素は「タイミング」であると田所氏は説きます。新規事業を立ち上げる秘訣は、「今の市場に最適化しない」ことです。市場適合に必要とされている18ヶ月という期間を見据えた場合、現在ではなく「例えば2年後に社会がどうなっているか」を予測しなければなりません。社会構造が変わり、行動変容が起きた少し先の未来において、「需要に対して何が決定的に不足しているか」を見立てることが極めて重要です。マクロな未来の潮目を読み、ミクロな現場の課題を掛け合わせることで、大企業アセットを最大化する強固なビジネスモデルが浮かび上がります。

2. 「頭脳の革命」の時代、自己の使命こそ個性たり得る

定型的な業務や、100点の回答に対して80〜90点を出すホワイトカラーの仕事はAIに置き換わり、「だんだんいらなくなっていく」と厳しい警鐘を鳴らします。だからこそ求められるのは、自ら未開の領域を切り拓く「探索型」のアクションです。プロンプトエンジニアリングのような流行のスキルは「半年もすれば陳腐化する」のに対し、AIには絶対に真似できないスキルがあります。それは「誰もが嫌がるような、めんどくさい領域に自ら飛び込み、泥臭いコミュニケーションを通じてそこに眠る一次情報(暗黙知)を掴みに行く力」です。このスキルは、「自分はこのために生まれてきたのである」と思うほどの強烈な当事者性、すなわち「実存的関心」があってこそ身につき得るものだと田所氏は語ります。実存的関心は個人的な環境や経験から生まれ、他者やAIには真似できない個性です。あなた自身の実存的関心を見つけ泥臭く探索してゆくことが、AI時代での勝ち筋となるでしょう。

3. 一度きりの人生、「死ぬ時に後悔しない」ための最初の一歩

大企業に属しながら新事業を探索することは、リスクを抑えて生涯使える「高い耐久性を持つ総合スキル」を身につける最高の環境です。田所氏は「人生長いんで、やっぱり1回は起業(新規事業に挑戦)するというのは、死ぬ時に後悔しないと思います」と語り、仮に挑戦が失敗に終わったとしても、「チャレンジを続ける姿勢は、昨今の出戻り制度などでも高く評価される」と背中を押します。まずは自らの関心を明確にし、自分のドメインを定めることからすべては始まります。未来の市場を作る探索者としての最初の一歩を今、踏み出しましょう。

【パネルディスカッションコラム】挑戦者と仕掛け人が織りなす新規事業開発論

既存事業と新規事業は「野球とサッカーほどルールが異なる」と語られます。パネルディスカッションでは、ファシリテーターの松本武士氏のリードのもと、日本製鉄から同社初の社内起業として株式会社KAMAMESHIを創業した小林俊氏、大日本印刷(DNP)から出向起業型カーブアウト第1号としてDigKnow株式会社を設立した伊藤悠一氏、東急不動産ホールディングス グループCX・イノベーション推進部の久保日乃氏が、壁を乗り越えるためのリアルな実践知を語り合いました。

1. 身につけるべき「決断力」「プロトタイピング」「翻訳力」

大企業で新規事業を任せてもらう大前提は「既存事業での仕事ぶりや結果、姿勢を心血注いで見せること」だと小林氏は主張します。その信頼を土台とした上で、答えがないなかでメリット・デメリットが両方ある状況でもスピード感を持って決めきる「決断力」を磨くため、日常的な自問自答を通じて判断軸を言語化する訓練が求められます。

大企業の「失敗できない信頼の呪縛」を打破する武器がプロトタイプです。伊藤氏は「AIを使えばすぐにプロトタイプが作れる時代。泥臭く現場の顧客にぶつけ、一対一で対話する」ことで、机上の空論を排して生の顧客の反応を観察する大切さを説きます。

大企業アセットを巻き込む鍵となるのが「翻訳力」です。久保氏は「好きなことをやっている」と見られがちな挑戦者の熱意を、「会社の戦略と結び付けたストーリーに翻訳して伝えるスキル」が、自社で挑戦する意義(Why us)を示すためにも重要であると指摘します。

2. 大企業の眠れるアセットを覚醒させる「企業側の仕掛けと出口」

小林氏は社内に制度がないなか社長へ直談判し、身分を維持したまま挑戦できる「出向起業」を第1号として自らこじ開けた突破口を提示。トップが挑戦を応援するメッセージを社内発信することが、風土を変える強力な仕掛けになると説きます。

伊藤氏は、社内のアイディエーションプログラムで段階的に事業検証を進める中で、事務局側から「社外に出る(出向起業)」という出口の選択肢を提案されたこと。そして「社内か社外かという明確な出口戦略と、挑戦者が目指すべき明確なライン(評価基準)が示されていることが動きやすさに繋がる」と仕掛けの重要性を強調しました。

久保氏は、事務局の仕掛けとして「事業が形にならなかった」という評価で終わらせない工夫を提示。審査不通過でも「検証プロセスの知見を役員向けに披露する場を作り、既存事業部へ蓄積・共有する」ことで、挑戦者が創り上げた知見を企業に残す仕掛けを実践しています。

3. 一歩を踏み出す「挑戦者と仕掛け人」へのラストメッセージ

小林氏は「最初のとっかかりは本当に些細なこと。とりあえずやってみようから始まる。人生1度きりなので一歩踏み出してほしい。必ずいい経験や出会い、学びがある」と背中を押します。

伊藤氏は「いきなり起業は勇気が必要だが、まずは同僚など気心の知れた人にアイデアを話してみる一歩でいい。たとえ事業を畳むことになっても、そこでの経験はキャリアに必ずプラスになる」と、挑戦リスクの低さと価値を説きました。

久保氏は、挑戦者に「事務局を使い倒してほしい。それによって事務局の存在意義が生まれる」と述べ、仕掛け人側にも「起案者の実際の声を大切にして寄り添い、学ぶ姿勢を持って制度を改善し続ける」重要性を説き、エールを贈りました。

登壇者プロフィール

主要指標 — KEY FIGURES

150名を超える
150名を超える
5社
日米で5社を起業した
18ヶ月
18ヶ月という期間
2年後
例えば2年後に社会がどうなっているか

田所 雅之 氏

株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO

1978年生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、米国アリゾナ州立大学に留学し科学哲学を学ぶ。帰国後、外資系コンサルティングファームに勤務し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後、日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業したシリアルアントレプレナーとして、企業向け研修会社、経営コンサルティング会社、エドテック系スタートアップ、米国ECプラットフォームなどを設

立。帰国後はシリコンバレーのベンチャーキャピタルでベンチャーパートナーを務め、世界中のスタートアップを評価。2017年、株式会社ユニコーンファームを設立し代表取締役CEOに就任。同年、自身の知見をまとめた著書『起業の科学』を出版し、ベストセラーとなる。関西学院大学経営戦略研究科客員教授も務める。

小林 俊 氏

株式会社KAMAMESHI 代表取締役社長

日本製鉄入社後、製鉄所での生産管理、本社の営業・事業企画、タイでの海外駐在を通じ、製造現場から経営戦略、グローバルビジネスまで多岐にわたる実務を経験。2022年、同社初の社内起業として株式会社KAMAMESHIを創業。製造業の設備老朽化解決に向けた企業間プラットフォームを展開する。東京都ベンチャー技術大賞「優秀賞」やNIKKEI THE PITCH「グランプリ」等、多数の表彰を受け、スタートアップ界隈のみならず、製造業のDXを推進する旗手として注目を集めている。

伊藤 悠一 氏

DigKnow株式会社 代表取締役

2017年大日本印刷(DNP)に入社。ITエンジニアとしてAIを活用した研究開発や新規事業開発に従事。医療・出版・教育・住空間・生成AIなど幅広い領域でフルスタックの開発を担当。DNPの出向起業型カーブアウト第1号として2025年10月にDigKnow株式会社を設立し、経済産業省後援の出向起業『認定・助成金』の認定も取得。AIによる技術ドキュメント自動生成サービス「Codeledge」を展開。

久保 日乃 氏

東急不動産ホールディングス株式会社 グループCX・イノベーション推進部 イノベーション戦略G

2020年東急不動産入社。分譲マンションにおける開発、計画業務を担当したのち2022年に現職であるCX・イノベーション推進部に異動をし、CVCによるベンチャー企業への出資検討、ならびにスタートアップとの事業連携も模索、新規社内提案制度の運営等を担当。

「GEMStartup TOKYO」とは

GEMStartup TOKYOは、大企業等の民間企業に眠る優れたアイデア、人材や技術シーズを発掘することを目的とした、東京都による新事業発掘プロジェクト事業です。

本事業は、社内初期ステージゲート通過を狙う「新事業創出プラットフォーム」、カーブアウト等事業化を狙う「事業化プログラム」、カーブアウト等に向けた新事業創出基盤の整備・強化を狙う「連携モデル」の3つのプログラムで構成され、起業家やベンチャーキャピタリスト、各分野のプロフェッショナルの方々による講義・ワークショップ、メンタリングを通じて、大企業等のイノベーション創出を支援します。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR TIMES
  • 分類:event_report
  • 関連組織:Tokyo Innovation Base / 株式会社ユニコーンファーム / 東急不動産ホールディングス