サムスン電子(005930KS)は、生成AIを半導体開発に加速的に導入している。システムLSI事業部は今年5月にAnthropicのClaude Codeを導入して以降、わずか3か月で顕著な成果を上げている。あるカスタムSoCの機能検証は、従来1か月以上かかっていたものが2日で完了し、効率は約15倍に向上した。また、入社2年目のエンジニアがAIを活用して、過去に1か月かかっていたUSBモデルの開発を1日で仕上げた事例もある。

サムスンは最近、カスタムSoCの検証プロジェクトにおいて、1か月以上の作業をわずか2日間に圧縮した。内部評価では、効率が約15倍向上したとされている。

このプロジェクトでは新しいアーキテクチャと外部設計IPが採用されたが、DRAMコントローラの設計資料など一部の情報が不完全だった。

従来のプロセスでは、エンジニアがまず資料を補完し、検証環境を構築した上で個別にテストを行う必要があるため、全体の所要時間が非常に長くなる。

Claudeを導入後、サムスンは設計情報、通信仕様、EDA検証データをAIに提供。これにより、AIが自動で検証環境を構築し、テストシナリオを生成。不足する設計資料は仮想モジュールで代替され、主要なデータパスの検証が前倒しで実施された。

この検証には64本のデータパスが絡む複雑な構造だったが、AIは検証サイクルの大幅短縮に加え、繰り返し操作による人的ミスの低減にも貢献したとされる。

新人エンジニアが1か月分の仕事を1日で達成

AIは半導体開発におけるエンジニアの経験依存度も下げつつある。従来、エンジニアはEDA環境でキーボードやマウスなどのUSBデバイスモデルを開発する際、ベンダー提供の基本コードに加えてUSB仕様を調査し、独自にコードを記述する必要があり、通常約1か月かかっていた。

今回、サムスンは入社2年目のエンジニアにこのタスクを割り当て、Claude Codeの使用を指示した。エンジニアは機能要件と参考コードを入力すると、AIが要求を分解しコードを生成。テスト結果に基づいて継続的に修正を行った。

その結果、キーボードとマウスのモデル開発・検証が1日で完了し、Androidシステム向けのUSBデバイスドライバの開発まで進めた。

AIはシステムLSIの「増員ツール」として機能

サムスンがAIを積極的に導入するのは、システムLSI事業部が直面する経営的プレッシャーとも関係している。事業部長のパク・ヨンイン氏は6月、第1四半期の売上高が過去最高となったものの、SoC事業の低迷により通年で赤字が避けられないことを明らかにした。Galaxy Z Fold8、Fold8 Ultra、Galaxy Watch9、Watch Ultra2はいずれも高通製チップへ移行している。

開発人材の不足も、システムLSI部門の競争力低下の一因とされている。競合他社と比べて約9倍の人員差がある中、サムスンはAIによって一人あたりの生産性を高め、反復的な開発・検証・規格学習の時間を圧縮することで、ベテランエンジニアは複雑なタスクに集中でき、若手は経験のギャップを早期に埋められるようにしている。

実際、サムスンは今年、半導体開発におけるAI活用を拡大している。3月には、アナログおよび論理チップの設計時間が約50%短縮されたと発表。先月には、メモリ事業部がPDK(プロセス設計套件)の更新調整時間が95%以上短縮されたと報告している。

AIの「越権行動」が潜在的リスクに

しかし、生成AIがチップ開発のコアプロセスに入り込むにつれ、リスクも浮上している。サムスンの内部テストでは、AIが「越権」または誤った対応を行うケースが確認された。

例えば、エラー修正を指示された際、AIが根本原因ではなくエラーメッセージ自体を改変して問題を隠蔽しようとした事例がある。また、特定機能の取り消しを求められた際、それ以前に完成していた他の作業まで巻き戻してしまったこともあった。

さらに深刻なのは、AIが検証結果を分析中に、実際に回路設計のRTLコードを直接編集しようとしたことだ。

サムスンは、これは現在のLLMがハードウェア設計言語や複雑な依存関係を十分に理解していないことを示していると評価している。

チップは量産後、ソフトウェアのように後からアップデートで欠陥を修正できないため、サムスンは現状、AIの作業範囲を人為的に制限し、出力結果を人間が再確認する体制を取っている。将来的には徐々に適用範囲を広げていく方針だ。

サムスンにとって、AIは現時点でエンジニアを代替するものではなく、反復的な開発・検証プロセスを圧縮するツールである。AIが迅速な作業を担当する一方で、目標設定や最終的な検証はエンジニアが責任を持つ。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR Times
  • 分類:ニュース
  • 関連組織:Anthropic / Qualcomm
  • 製品・サービス:Claude Code / SoC