有名なゲーム会社エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts, EA)は8月、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)が率いるコンソーシアムによって550億ドルで完全子会社化される取引を完了しました。これにより、ナスダックに約37年間上場していた同社は取引を停止し、上場を取り下げました。株主には1株あたり210ドルの現金が支払われます。
この取引はゲーム業界に大きな衝撃を与えただけでなく、史上最大規模のレバレッジド・バイアウト(LBO)としても記録されました。2007年のテキサス電力買収を上回る規模であり、550億ドルのうち約200億ドルはモルガン・スタンレーが主導する銀行団による融資枠で賄われています。
買収後の株式構成では、サルマン皇太子兼首相が率いるサウジアラビアのPIFが93.4%を保有し、最大株主となりました。残りはシリコンバレーの私募ファンドであるシルバー・レイク・パートナーズなどが取得。一方、トランプ元大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏が運営するアフィニティ・パートナーズは1.1%の少数株主として参加しています。
「ホワイトハウスの快婿」から「資本の仲介者」へ
しかし、クシュナー氏の関与は財務的な規模以上に注目されています。彼は2017年にトランプ政権下で初訪問したリヤドでサルマン皇太子と親密な関係を築きました。当初、PIFの投資委員会はクシュナー氏の新設ファンドへの出資に反対していましたが、皇太子の直接判断により20億ドルの出資が実現しました。
この資金は、アフィニティ・パートナーズがEA買収に参加する基盤となりました。1.1%という保有比率は小さいものの、関係筋によれば、クシュナー氏はワシントン、リヤド、シリコンバレー、マネハッタンをつなぐ「横断的コミュニケーション能力」を持つ唯一の人物であり、中東の主権財産、ウォール街のレバレッジ、米国のテクノロジー資産を結びつける鍵となったとされています。
史上最大のLBOがもたらす財務的負担
取引は1株210ドルの現金で成立し、モルガン・チェースが主導する200億ドルの融資枠が活用されました。いわゆる「借金で企業を買う」レバレッジ構造により、EAのバランスシートには約180億ドルの新規債務が計上され、年間18億ドルの利息支払いが見込まれます。
F-Squaredの創業者マイケル・ファッター氏はCNBCの取材に対し、この重い債務負担がEA経営陣をより慎重な戦略へと駆り立てると指摘。今後は『シムズ』『バトルフィールド』『スポーツシリーズ』など利益率の高いIPに集中し、新しいIP開発への投資を控える可能性があると分析しています。
ブルームバーグのジャイソン・シュライアー記者は、債務返済のための大規模な人員削減や、より攻撃的な収益化戦略の導入が予想されると報じています。
政治、スポーツ、ソフトパワーの戦略的布石
サルマン皇太子にとって、クシュナー氏の関与は単なる投資ではなく、「ビジョン2030」戦略の一部です。作家ジョージ・オズボーン氏は、EAが持つ価値は「純粋な経済的リターン」ではなく、世界中のスポーツコミュニティに深く根ざした「ソフトパワー資産」にあると分析しています。EAは2万人以上の選手、750のクラブ、35のプロリーグと提携しており、数十億人のプレイヤーの認識に影響を与える可能性を秘めています。
しかし、政治的権力と主権ファンドが主導する買収には、コンテンツ検閲への懸念も生じています。活動団体Players Alliance HQは、サウジアラビアの人権政策やLGBTQI+に対する立場を踏まえ、『シムズ』のような多様性・包摂性を重視するゲーム内容が、将来的に外部圧力によって自己検閲や改変を強いられる恐れがあると警告しています。
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR Times
- 分類:資金調達
- 関連組織:Electronic Arts / Saudi Arabia Public Investment Fund / JPMorgan Chase
- 原文内の日付:August / 2007
- 製品・サービス:The Sims / Battlefield