偽書や偽史めいた作品で人気の奥泉光さんですが、「極め付きの偽書」とでもいうべき凝りに凝った小説が誕生しました。明治の洋画家・松枝獏園のいくぶん風変りな自叙伝だという「木蓮記」は、かつて1941年に神保町の桐谷書店から出版されたものを、このたび「アジア奇譚叢書」に収録することになった、という体で始まります――。「新潮」2026年1月号から3月号に掲載、雑誌掲載時より話題の一作でした。奥泉光さんならではのメタ構造と虚実の皮膜を愉しむ、極上の偽書小説で、「いかにもありそう」と思わせる細部の作り込みが大きな反響を呼びました。

どこが凝りに凝っているのか。3つのポイントに絞ってお伝えします。

〇まずは装丁と造本。主人公・松枝獏園が生まれ育った物語の舞台、牛込の屋敷をイメージした表紙カバーをめくると、「アジア奇譚叢書」風の表紙がお目見えします。松枝の筆によるという木蓮の絵もきっちり再現されて、本文に出てきます。読者はいつの間にか「実在する本を読んでいる」ような感覚に陥ります。

〇奥泉さんの過去作品『坊ちゃん忍者幕末見聞録』や『虚傳集』に出てきた登場人物が複数人、スピンオフ的に登場します。覚えていた読者はニヤリとする登場の仕方です。

〇最大のポイントが、奥泉さんの読みやすさとリズムにこだわった、旧かなづかいのモノローグ調の文章です。神隠しやら異界やら不可思議なことばかり語られますが、飄々とした語り口で、読んだら止まりません。怪異と近代が交錯する世界観に魅了されます。

書籍内容紹介

主要指標 — KEY FIGURES

1956年
1956年山形県生まれ
1986年
1986年「地の鳥 天の魚群」でデビュー

面白きこと無類、奇なること無双。語りの名手・奥泉光、鬼神を欺く大偽書!  明治の洋画家・松枝獏園――旗本・筧家の庶子に生まれ、奇人蘭学者に育てられた男の風変わりな自叙伝「木蓮記」。太平の夢に揺蕩う日々は、やがて維新の奔流に呑み込まれていく。幕末の動乱、筧四兄弟の明暗、そして木蓮にのぼり異界を見る義姉・豊根の失踪。偽書の体裁で仕掛ける、妖しくも美しい奥泉文学の真骨頂。

著者紹介:奥泉光(おくいずみ・ひかる)

1956年山形県生まれ。1986年「地の鳥 天の魚群」でデビュー。『ノヴァーリスの引用』で野間文芸新人賞、瞠目反文学賞、『石の来歴』で芥川賞、『神器 軍艦「橿原」殺人事件』で野間文芸賞、『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞、『雪の階』で柴田錬三郎賞、毎日出版文化賞を受賞。2025年『虚史のリズム』で毎日芸術賞を受賞。『坊ちゃん忍者幕末見聞録』、『虚傳集』など著書多数。

書籍データ

【タイトル】木蓮記

【著者名】奥泉光

【発売日】2026年9月30日

【造本】四六判変型

【定価】2420円(税込)

【ISBN】978-4-10-391205-7

【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/391205/

FACT BOX ・ 要点整理

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