英国政府は7月16日、立法手続きを通じて、先日下院議会で可決された『鉄鋼工業(国有化)法案』(Steel Industry (Nationalisation) Act)を活用し、中国の民営鉄鋼企業・敬業グループが投資するスケンソープ(Scunthorpe)にある英国スチール(British Steel Limited)の製鉄所を、スターマー首相(Keir Starmer)が退任前に国家の利益を理由に、国有化手続きを開始すると発表した。

この件について、専門家の間では解釈が分かれている。ビジネス観点から見れば、英国スチール社および英国製鉄業全体の競争力低下は否定できない事実である。仮に同社の経営状態が良好で、利益が安定していれば、2020年に英国政府は敬業グループによる買収を承認しなかったはずだ。

しかし敬業グループが経営を引き継いだ後、設備の更新、人員の合理化、体制の見直し、環境対応など複数の施策を通じて競争力を再構築しようとした。だがその改革プロセスで英国政府との対立が繰り返され、2025年に政府が公権力で経営を掌握。その結果、毎日百万ポンドの赤字を抱えながらも生産設備を維持せざるを得なくなった。

今回、立法手続きにより、英国政府は敬業グループと正式に決別し、国有化の名目で企業の所有権を取得した。今後は独立機関が設置され、敬業グループへの補償額が評価される予定である。これに対し、中国外務省は英国政府の措置に異議を唱え、正当な権利侵害であると指摘。中国企業の対英投資信頼が大きく損なわれると警告した。

実は英国スチールの歴史をたどれば、もともとBritish Steel plcとして始まり、その後TaTa Steel Europeが買収し、オランダのKoninklijke Hoogovensと合併。最終的に現在のBritish Steel Limitedとして分割された。この過程で、国有化、民営化、合併、分割を繰り返しており、今日の状況は一朝一夕の結果ではない。

英国スチールにはもともと構造的な問題が多数存在し、さらに英国全体の製鉄業・製造業の景気低迷という外部要因も重なり、敬業グループと政府の経営方針の対立が決定的となった。政府が最終的に介入したのは、国家の安全保障や戦略的配慮からやむを得ない措置だったのか。この点については、依然大きな議論の余地がある。

なお、英国政府は表面上、国有化は国家の安全保障、経済的レジリエンス、サプライチェーンの安定、環境転換といった戦略的配慮によるものと主張している。さらに政治評論家の中には、華為技術(Huawei)の5Gネットワーク排除、ニューポート・ウェーハーファブの売却要請、中国広核集団(CGN)のSizewell C原発プロジェクトからの撤退要求などと関連づけ、英国がインフラの運営から中国資本・技術を段階的に排除しようとしていると分析する者もいる。

一方、敬業グループ自身も鉄鋼事業での失敗事例がある。2020年初頭に雲南安寧市の永昌スチールを買収し操業を再開したが、2024年には経営難から破産清算・永久操業停止となった。したがって、英国政府の介入により、英国スチールの経営泥沼から脱却できるのであれば、壮絶な決断ではあるが、長期的な損失回避につながる可能性もある。

また、英国スチールの国有化が本当に国家の安全保障に関わるのか。その生産能力が戦略的に重要なのかについても疑問が呈される。同社の生産量は英国の鋼材輸入量に比べて極めて小さく、軍事用途に必要な特殊鋼の多くも製造できない。仮に軍需産業の重要な供給源であれば、当初から中国企業に経営を委ねるはずがない。

近年、英国政府が中国企業の国内インフラ投資を阻止する事例が複数あるが、技術的懸念によるものもあれば、技術とは無関係で、経営支配権を持たない出資に対しても撤退を強いるケースもある。これは、米国からの圧力と国内経済の現実の間で、英国政府が揺れ動いていることを示している。

中国の海外投資や企業拡大を国家の安全保障に結びつけて封殺する戦略は、米国が中国に対抗する外交的圧力の一環である。確かにこの圧力は多くの国を中国資本排除に駆っているが、その代償として自国の企業や社会にも悪影響を及ぼしている。

中国企業が他国で買収後に経営失敗を経験しても、必ずしも現地政府の政策介入が原因とは限らない。個々の事例は企業の体質と経営環境を詳細に検証する必要がある。資本主義の老舗国が、社会主義的な国有化で問題解決を図る姿は、皮肉にも自らの主張を否定しているように見える。因果応報とはまさにこのことだろう。

*著者は中華戦略学会の上級研究員。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR Times
  • 分類:ニュース
  • 関連組織:敬業グループ / TaTa Steel Europe / Koninklijke Hoogovens