対多数の博士生にとって、論文は研究資料の束であり、口頭試験を終えれば図書館に並ぶ一冊の本で終わります。しかし、英特磊科技(IET-KY、4971)の会長である高永中の博士論文は、一冊の本ではありませんでした。それは実際に動作する分子束磊晶(Molecular Beam Epitaxy、MBE)装置そのものでした。
「私の博士論文は、MBE装置の構築です」と、彼はあっさりと言います。まるでただの日常業務を語っているかのように。しかし、この一台の装置は、その後三十数年にわたる彼の人生をほぼ予告していたのです。アメリカでの学び、テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)への入社、そして英特磊の設立に至るまで、彼は一貫して材料、装置、化合物半導体プロセスの世界から離れることはありませんでした。
高永中は、技術の本質を理解するためには、理論だけでなく実際の装置を自ら設計・構築することが不可欠だと考えました。そのため、博士課程では単にシミュレーションや分析を行うのではなく、真空環境下で半導体結晶を一層ずつ成長させる高度なMBE装置を自ら設計し、実装しました。この経験が、後に彼が半導体産業の動向を的確に読み、特に台積電(TSMC)の将来性を見抜く判断力の基盤となったのです。
二十数年前、台湾の半導体産業はまだ発展途上にあり、TSMCも現在のようなグローバル企業ではなかった時代。高永中は、その技術的ポテンシャルと経営戦略に注目し、早期に株式を購入。長期保有を続けたことで、大きな資本リターンを得ました。これは単なる幸運ではなく、彼が材料とプロセスの専門家として、半導体製造の本質を深く理解していたからこそ可能な洞察でした。
英特磊科技は、そのような高永中の哲学を体現する企業です。同社は、化合物半導体の研究開発を支える高精度MBE装置や関連プロセス技術を提供しており、学術機関や先端デバイスメーカーと連携しながら、次世代の光デバイス、量子技術、5G通信素子の開発を支えています。彼の経営は、短期的な利益ではなく、技術的持続可能性と長期的価値創出を重視する点に特徴があります。
高永中の経歴は、技術者としての深い専門性が、経営判断や投資戦略にどのように活かされるかを示す好例です。彼のMBE装置という「論文」は、単なる学術的成果ではなく、その後のキャリアと企業価値の礎となったのです。
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR Times
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