英国政府は近日、緊急立法を用いて英国鋼鉄(British Steel)を強制的に国有化し、2020年から同社を支配してきた中国の敬業グループ(Jingye Group)の経営から排除した。

しかし、この出来事は単なる企業救済ではなく、グローバルサプライチェーンの構造的転換を象徴している。かつての「効率最優先」のグローバル化から、「供給の安全性」を重視する「セキュリティ主導型」の新時代へと移行しているのだ。

敬業グループは1990年代に設立された中国河北省の民間鉄鋼企業で、製造業500強にも名を連ねる大手企業である。同社は2019年末、財政危機に陥った英国鋼鉄を2020年に買収し、10億ポンド以上を投資して数千の雇用を維持すると約束した。当時は中英関係の「黄金時代」の名残もあり、中国資本が英国のインフラやエネルギーに投資することは珍しくなかった。

しかし、買収後まもなく新型コロナウイルスの影響でエネルギー価格が上昇し、ロシア・ウクライナ戦争により欧州の天然ガス価格が急騰。さらに世界の鉄鋼需要の低迷や英国市場の規模の小ささ、EUの炭素排出規制によるコスト増加が重なり、British Steelは長期にわたり赤字経営が続いた。敬業グループは「1日あたり70万ポンドの損失が発生しており、政府支援がなければ高炉の運転は維持できない」と繰り返し訴えていた。

これに対し、敬業グループは「英国政府の今回の措置は、自らの信頼性を破壊し、世界中の投資家の心を冷やすものだ。法の支配がここまで崩壊しては、誰が英国に投資しようとするだろうか」と強い口調で非難した。中国商務省も「強い不満」を表明し、「国家安保を口実にした強制接収だ」と批判した。

一方、英国政府は2025年4月に経営を一時的に掌握し、同年7月に特別法を制定して完全に国有化した。その理由は明確だ。Scunthorpeにある同工場は、英国で唯一、鉄鉱石から直接鋼を生産する「一次鋼」の高炉を持つ施設であり、これが停止すれば、軍需品、鉄道、エネルギーインフラ、防衛産業まで海外に依存せざるを得なくなる。

つまり、英国は「企業の利益」ではなく、「国家の産業基盤」と「供給網の安全保障」を守るために国有化を決断したのである。

この措置は、中国資本のグローバル展開にとって大きな挫折を意味する。かつては「資金さえあれば」と思われていた海外M&Aも、今や「国家安保」や「サプライチェーンの脆弱性」の観点から再評価されている。米国の《チップス法》、英国の《国家安全保障投資法》、台湾の半導体連携戦略など、先進国は戦略産業を「友達の国」に移す「フレンドショアリング」を推進している。

中国も同様に、政府機関や国営企業において、オフィス用品の国産化、iPhoneの使用制限、Tesla車両の立ち入り禁止など、自国の供給網の「脱西洋化」を進めている。つまり、グローバル化は「効率」から「レジリエンス(回復力)」へと進化しているのだ。

英国は脱EU後、「グローバル・ブリテン」戦略で中国市場に期待したが、AUKUSやインド太平洋戦略の下で、経済関係の「リスク低減(デリスク化)」が優先されている。中国企業は「一帯一路」などで新興市場に活路を見出すが、西側の国家安保審査が厳しくなる中、海外投資の合法性と信頼性をどう保つかが問われている。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR Times
  • 分類:ニュース
  • 関連組織:British Steel / Jingye Group