2024年7月、台湾の中聯油脂が販売する大豆サラダ油から、一級発がん物質であるベンゾピレン(a)が8.1マイクログラム/キロの濃度で検出された。これは台湾とEUが採用する厳しい基準値2.0マイクログラム/キロを大きく上回るものであり、全土での販売中止、サプライチェーンの調査、そして凱道での大規模な反毒油デモへと発展した。この騒動は台湾の食品安全への信頼を大きく損なっただけでなく、中国のソーシャルメディアでも大きな話題となった。

一部の公式メディアが「台湾の食品安全が再び問題」と報じる中、多くの中国ネットユーザーは逆に、中国国内で長年解決されていない食品安全問題に矛先を向けた。2024年に全国を震撼させた「油タンクローリー混載食用油」事件に加え、「鼠頭鴨脖」、「メラミン奶粉」、「スダノン色素」、「溝渠油(地溝油)」といった過去の重大な食品安全事件が再び話題に上った。

台湾が厳格な基準で対応したことが、中国のネットユーザーによる「基準の差異」比較を促した。多くの中国ユーザーが両岸の基準を比較した結果、中国の『食品安全国家標準 食品中汚染物質限量』(GB 2762)における食用油中のベンゾピレンの上限が10マイクログラム/キロであるのに対し、台湾は2.0マイクログラム/キロと、中国の約5倍も厳しいことが判明した。つまり、台湾で販売停止となった「毒油」は、中国では「合法・基準内」と見なされる可能性があるのだ。

この事実を知った中国のSNS上には、皮肉や自虐的な投稿が相次いだ。あるユーザーは「2、8.1、10」という3つの数字を並べ、「さすが神族だ、飲む油が違う」と皮肉った。また、「結局誰が毎日毒油を飲んでいるのか?」と問いかけた声もあった。これらの議論は、2023年の「鼠頭鴨脖」事件や、2024年に『新京報』が暴露した油タンクローリー混載の不正行為へと広がり、国民の関心は単なる基準比較から「当局の食品安全問題はいつ終わるのか」という根本的な問いへと移行した。

食品安全は中国において長年にわたり、極めてセンシティブな問題である。当局は個別の事件が大規模な社会的危機に発展するのを避けつつ、企業には国家基準の厳格な遵守を求めているという二面性を持つ。

2024年7月、党系メディア『新京報』の調査により、油タンクローリーが石炭由来の油を運搬した後、洗浄せずに大豆油などの食用油を積み替えるという業界の「公然の秘密」が暴露され、两岸三地に衝撃を与えた。中国国務院食品安全弁公室は直ちに合同調査チームを設置し、最終的に2件の事案、約68トンの問題油が確認され、2人の運転手が刑事告訴、7社が罰則を受けたと発表。また、強制的な国家基準『食用植物油散装運輸衛生要求』の制定を推進した。報告書は「極めて悪質で、道徳的・法的ラインを踏み越えた」と断じたが、台湾で先週末に「反毒油」運動が起きた後、多くの中国国民はSNS上で「一時的な対応で終わるのか」「また元の状態に戻るのでは」と疑問を呈している。

この現象は初めてではない。江西の大学食堂で発生した「鼠頭鴨脖」事件では、学生が料理に異物を発見したが、学校側と地方市場監督管理局は当初「鴨の首」と主張し、当事者に訂正を要求した。世論の圧力を受け、省レベルの合同調査チームが結論を覆し、正体は「ネズミの頭」であると認定。関係機関と企業が責任を問われた。

中国のSNS上では、台湾の「毒油」騒動に関する投稿が相次いだ(出典:新浪微博)。

食品安全問題は、当局の「社会安定維持」と国民の「不安」の間で、長年にわたり綱引きが続いている。中国当局は近年、「最も厳密な基準、最も厳しい監督、最も厳しい処罰、最も厳格な問責」という「四つの最厳」を強調している。しかし一方で、食品安全問題は地方政府の監督、財政、企業責任、社会的安定といったセンシティブな要素と密接に関わっており、政治的に極めて扱いにくい課題となっている。

当局は事件の拡大を防ぎ、社会的パニックを抑える一方で、企業には国家基準の全面的遵守を求めている。この「安定維持」と「監督強化」の両立という二重目標が、「集中是正→メディアの関心低下→世論の沈静化」という繰り返しのサイクルを生み出している。そのため、新たな食品安全事件が発生するたびに、国民が蓄積してきた不信感が再び爆発する構造になっている。

現在、中国では主要なフードデリバリープラットフォームに対し、配達時に「シール封印」を義務付ける措置が取られている。これは配達中の食品のすり替えを防ぐためであり、淘宝(タオバオ)、京東(ジンドウ)、拼多多(ピンドゥオドゥオ)などから購入した食品にも、宅配用包装に加えて、より厚手の包装が求められている。

中国メディアは「台湾の食品安全崩壊」に焦点を当て、両岸の基準差異を矮小化した。注目に値するのは、中国の国民が議論の中心を国内の食品安全問題に置くのに対し、中国の官媒や公式メディアは一貫して「台湾の食品安全が再び問題」という視点に集中している点である。『中国網』をはじめとする地方党系メディアやポータルサイトは、「台湾国民が反毒油運動」「民進党当局の食品安全失敗」「台湾で毒油騒動発生」などの角度から報じ、台湾の野党、市民団体、被害消費者の批判を大量に引用。事件が台湾国民の政府への信頼を損なった点を強調している。

しかし、台湾の政治的対立に多くの紙面を割く一方で、ベンゾピレンの検出基準、各国の限量差異、台湾当局による販売中止・回収・流通追跡などの対応措置といった技術的側面については、ほとんど触れられていない。また、中国の植物油ベンゾピレン基準が台湾やEUより高い事実についても、ほとんど説明されていない。

この報道姿勢により、多くの中国ネットユーザーが自ら法規を調べるようになり、中国の植物油ベンゾピレン限界値が1キロあたり10マイクログラムであるのに対し、台湾は2マイクログラムであることを発見。多くのユーザーが「台湾の基準が低いのではなく、私たちの基準が緩いだけだ」とコメントした。

中国AIソフトで台湾の「毒油」騒動を検索した結果(田暢提供)

さらに興味深いのは、多くの公式メディアのコメント欄が、本来「台湾の食品安全問題」に集中すべきところ、中国国民によって「話題が逸れた(歪樓)」ことだ。総合的に見ると、食品安全問題の核心は基準の数値そのものではなく、その「実行力」「透明性の仕組み」「問責文化」にある。当局が「全業界一斉点検」と新基準の制定を強調することは、一部の民意に応えるものではあるが、SNS上で繰り返し取り上げられる過去の事件は、中国の食品安全問題が依然として社会的に極めてセンシティブで、容易に鎮静化しない公共課題であることを示している。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR Times
  • 分類:ニュース
  • 製品・サービス:大豆サラダ油 / 食品安全検査サービス