2021年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界中で猛威を振るっていた時期、台湾でもワクチンやマスクなどの防疫物資が極度に不足していた。その中で、慈濟基金會、鴻海科技集團、台湾積體電路製造(TSMC)が協力し、1500万回分のBNTワクチンを共同調達し、政府に寄付して国民に無償で接種される形で供給した。この取り組みは、当時の台湾の感染拡大を抑える上で極めて重要な役割を果たし、政府の感染症対策本部も度々、民間団体の貢献を公に称えていた。

しかし、その後、慈濟基金會がこのワクチン調達の過程で約10億円(新台湾ドル3億元)の資金を詐欺被害に遭ったことが明らかになり、社会に大きな衝撃を与えた。検察当局はすでに捜査を終え、関係者を起訴しているが、政治的な波紋は広がり続けており、与野党の間で激しい論争が続いている。

当時、台湾の総統を務めていた蔡英文氏は、7日午後、自身のフェイスブックを通じて声明を発表した。彼女は、「危機が訪れたとき、人々は特定の政党を信じる必要はないが、専門性を信じるべきだ」と強調。また、パンデミック中に医療従事者や防疫スタッフがリスクを冒して第一線で働いたこと、企業や宗教団体、民間組織が台湾の早期ワクチン確保に向けて尽力したことに改めて感謝の意を示した。

蔡英文氏は、ワクチンの調達は外から見ると以上に困難だったと説明。当時は世界的にワクチンの供給が極めて逼迫しており、各国が競って調達を進めていたため、あらゆるルートを精査し、慎重に進めなければならなかったと語った。特に、国民の焦りが高まる中で、政府は混乱に陥らず、国家としての信頼と国民の健康を守るために冷静さを保つ必要があったと述べた。

さらに、彼女は、当時の防疫チームが時間との戦いの中で、プロセスと専門性を貫いたために、すべての判断が即座に理解されなかったと認めた。しかし、今になって振り返れば、その慎重さがどれほど重大な責任を伴っていたかがわかると語った。

今回の慈濟の詐欺事件について、蔡英文氏は、慈濟がワクチンを寄付しようとした動機は「人命を救う」ことだったとし、調達過程で詐欺に遭った慈濟も被害者であると明言。司法の調査を尊重し、事実が明らかになり、被害者の権利が守られることを期待すると述べた。

また、彼女は、この経験から学ぶべき教訓として、「最も困難で緊急な時ほど、冷静さ、専門性、制度のチェック機能が重要になる」と締めくくった。

一方、当時の中央流行疫情指揮中心の副指揮官を務めていた王必勝氏は、6日にフェイスブックで当時を振り返り、「時間が経つほど、指揮官・陳時中の『混乱してはいけない』という言葉の賢明さが理解できるようになった」と投稿。翌日、陳時中氏自身もSNSで反応し、「慈濟の被害に遺憾の意を表する」としつつ、当時、政府が『ワクチンブローカー』による詐欺を警戒していたにもかかわらず、それが逆に『政府がワクチン導入を妨害している』という虚偽の主張に利用され、自分は『人命を軽視した』とまで非難されたと語った。

陳時中氏は、今でもそのような虚偽情報に騙されている人がいることに憂慮を示し、事実を正しく伝えることの重要性を訴えた。

この事件を受けて、風伝媒などのメディアは、『慈濟がワクチンを買う際に10億円騙されたが、陳時中は事前に警告していたのか?』『蔡英文がかつて行ったある行動を忘れるな』などと題した記事を相次いで掲載。政治的責任の所在や、情報操作の構図についての議論が深まっている。

総じて、この事件は、パンデミック下の緊急対応における民間と政府の協働の意義と、その過程で生じうるリスク、そして政治的利用の危険性を浮き彫りにしている。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR Times
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