早稲田大学(所在地:東京都新宿区、総長:田中 愛治)、東京都市大学(所在地:東京都世田谷区、学長:野城 智也)、TISインテックグループのTIS株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:岡本 安史)、岡山理科大学(所在地:岡山県岡山市、学長:平野 博之)、芝浦工業大学(所在地:東京都江東区、学長:山田 純)は、バーチャル空間での三人称視点による議論が、集団意思決定に及ぼす影響を、一人称視点と比較する実験により明らかにしたことを発表します。
本研究で、バーチャル空間における三人称視点では、自己の最終意見がグループのコンセンサスと一致した程度や、他者の最終意見を推測できた程度を向上させ、意思決定の質の改善につながることが確認されました。また、会話の流れを調節するためのジェスチャー行動が増加し、グループ内に生じた葛藤や感情の相互依存性が低下することもわかりました。 これらの結果から、バーチャル空間での三人称視点は、感情的結びつきの認識に多少の代償を伴いながらも、グループをより円滑で合意形成しやすい意思決定へ導く可能性が示されました。 今後は、状況に応じた視点の使い分けについて実際の会議での応用を見据えた検討を進め、より良い集団意思決定を促すコミュニケーション環境の実現を目指します。
検証に至った背景
組織やチームが意思決定を行う際、メンバー一人ひとりが自己の利得や価値観などにとらわれず、俯瞰的な視点から議論に関わることが重要ですが容易ではありません。このような俯瞰的な視点を持つためのメカニズムとしてセルフディスタンシング(自己から心理的に距離を置くこと)があり、その典型的な実践手段は三人称視点から自己の体験を観察していることの想像です。 早稲田大学人間科学学術院の市野 順子(いちの じゅんこ)教授、TIS株式会社 技術本部セクションチーフの井出 将弘(いで まさひろ)氏、岡山理科大学経営学部の横山 ひとみ(よこやま ひとみ)教授、芝浦工業大学システム理工学部の淺野 裕俊(あさの ひろとし)教授、東京都市大学メディア情報学部の宮地 英生(みやち ひでお)教授、同学部の岡部 大介(おかべ だいすけ)教授の研究グループは、没入型バーチャル空間において、三人称視点と一人称視点での対話の比較を通して、集団意思決定に及ぼす影響を調査しました。その結果、三人称視点は一人称視点と比べて、(1)意思決定の質(自己の最終意見がグループのコンセンサスと一致した程度の向上、他者の最終意見を推測できた程度の向上)、(2)コミュニケーション行動(会話の流れを調節するためのジェスチャー行動の増加)、(3)参加者自身の認識(グループ内に生じた葛藤の減少、グループ内の感情の相互依存性の減少)に有意に影響を及ぼしました。これらの結果から、三人称視点は、対立が生じやすい局面には適する一方で、共感が重視される局面には適さないことがわかりました。 本研究成果は、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)分野におけるトップ国際会議CHI2026「The ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI) 2026」で2026年4月13日に発表・公開されました(論文名:Effects of Embodied Self-Distancing in Virtual Environments on Group Decision-Making)。
検証の概要
1.これまでの研究で分かっていたこと
三人称視点は、セルフディスタンシング(心理学の分野で提唱された概念で、自己から心理的に距離を置くこと)の典型的な実践手段です。これによって、過去の体験に関して、感情調節・自己制御・行動変容に肯定的な効果をもたらすことがわかっています。しかし、現在進行している体験の最中に三人称視点から自己を観察することは容易ではありません。 これに対し、バーチャル空間では、ユーザーはあたかも自分の身体のように感じるアバターとして存在しており、加えて、ユーザーの視点を任意の位置に設定できるため、体験の最中に三人称視点から自己を観察することが容易にできる可能性があります。これまで、バーチャル空間で三人称視点を適用した研究は多くありますが、主に単独のゲームやスポーツなど個人レベルの活動への影響に焦点を合わせており、集団意思決定など集団レベルの活動への影響はほとんどわかっていませんでした。
2.新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと 今回の研究では、一般から募集した48の3人組(144人、20~49歳)の参加者を対象に、三人称視点(参加者の視点を自己のアバターの後方斜め上に設定)と一人称視点(参加者の視点を自己のアバターの頭部に設定)のいずれかを用いて、2種類のトピックについて3人で議論し意思決定してもらう実験を行いました(図1)。集団意思決定に及ぼす影響を、意思決定の質・コミュニケーション行動・参加者自身の認識(アンケート)に関する多数の項目を用いて定量的・定性的に評価しました。 各項目の結果を総合すると、三人称視点は、<対立が生じやすい局面に有効である>一方で、<共感が重視される局面に有効でない>ことが示唆されました。以降では、これらに関連する結果を示します。
2.1 三人称視点が<対立が生じやすい局面に有効である>ことを示す結果 【他者の最終意見を推測できた程度の向上】 グループでの議論を経て形成されたコンセンサスに対して、他者の最終意見(本心)を、議論後に各参加者に推測してもらいました。その結果、三人称視点は一人称視点よりも推測できた程度が高く、統計的にも有意でした(図2)。このことから、三人称視点の参加者は、他者の意見をよく聴き、かつ、それをよく覚えていたことがわかります。
【グループ内に生じた葛藤の減少】 議論中、グループ内で葛藤がどの程度生じたと思うかについて、関係葛藤(価値観の違いや対人関係の軋轢)と課題葛藤(意見の対立)に分けて、議論後に各参加者に尋ねました。その結果、いずれも、三人称視点は一人称視点よりも葛藤が小さく、統計的にも有意でした(図3)。このことから、三人称視点では、対立が抑制され、議論が協調的に進行したことがわかります。 インタビュー分析の結果も同様の傾向が見られました。三人称視点の参加者からは、妥協点の模索や意見のすり合わせに関するコメントが多く寄せられました。一方、一人称視点の参加者からは、対立についてのコメントが多く寄せられました。
【自己の最終意見がグループのコンセンサスと一致した程度の向上】 グループでの議論を経て形成されたコンセンサスに対して、自己の最終意見(本心)と一致しているかを、議論後に各参加者に尋ねました。その結果、三人称視点は一人称視点よりも一致の程度が高く、統計的にも有意でした(図4)。このことから、三人称視点の参加者は、グループのコンセンサスを単に受け入れただけでなく、本心から同意したことがわかります。
以上の結果から、他者の意見を理解しようとする認知的な姿勢(他者の最終意見を推測できた程度の向上)が、対立が生
FACT BOX ・ 要点整理
- 出典:PR TIMES
- 分類:調査
- 製品・サービス:バーチャル空間コミュニケーションシステム