【研究の要旨とポイント】

シリコン量子ビットの性能を低下させるノイズの発生メカニズムを理論モデルと統計的シミュレーションで解析しました。

通常より高い温度(約200 mK)で動作させた際に量子ゲート操作の正確性(忠実度)が改善するための条件をシミュレーションで特定しました。

ノイズの原因が「原子の動き」ではなく、「電子の遷移」がより妥当である可能性が高いことが示唆されました。

本研究成果は、界面の電荷トラップ制御など、将来の大規模・高集積シリコン量子コンピュータ設計への指針を提供します。

【研究の概要】

東京理科大学と産業技術総合研究所の共同研究グループは、シリコンスピン量子ビットで観測される量子ビット周波数の温度依存シフトと、極低温領域内での高温側動作におけるゲート忠実度の改善について、二準位揺らぎ(TLF)に由来する電荷ノイズを用いた統計シミュレーションで再現・解析しました。多数のパラメータ設定を系統的に評価した結果、TLFの活性化エネルギーが指数分布であり、最小遷移時間が短く温度依存が急峻であることが実験再現と忠実度改善に重要であることを示しました。これらから、TLFの主体として電子遷移がより妥当である可能性が高いと結論づけました。本研究は、今後のデバイス設計やトラップ制御戦略の検討に役立つ知見を提供します。

本研究成果は、2026年5月4日に国際学術誌「IEEE ACCESS」にオンライン掲載されました。

【研究の背景】

量子コンピュータは次世代技術として期待されています。中でもシリコン量子ビットは、既存の半導体製造技術との親和性が高く、大規模化へ向けた有力な方式の一つです。しかし、熱揺らぎや微小ノイズによる性能低下が課題であり、特に動作中の量子ビットの共鳴周波数(Larmor周波数)の変化がゲート操作の正確性を低下させます。近年の実験では、通常の極低温(約20 mK)よりも、やや高い温度(約200 mK)で動作させた方が性能が改善するという現象が報告されていますが、その仕組みは不明でした。

【研究結果の詳細】

研究グループは、Si/SiGe量子ドット近傍の半導体/酸化膜界面に存在する多数のTLFに着目し、TLFの温度依存ダイナミクスを数値シミュレーションで詳細に調べました。量子ドットと外部磁場勾配を含むモデルを構築し、TLFの空間配置、活性化エネルギー分布、最小遷移時間など多様なパラメータを変えて、実験で報告された「Larmor周波数の非単調な温度依存」や「高温でのゲート忠実度改善」を再現できる条件を探索しました。総計108通りのパラメータ設定について、各設定につき5,000種のTLF分布を生成して解析しました。

シミュレーションの結果、TLFの活性化エネルギーが指数分布に従い、かつ遷移時間の温度応答が急峻な場合に、実験報告の現象が最もよく再現されました。この傾向から、原子的な機構よりも伝導帯と浅いトラップ状態間の電子遷移が有力な起源であると結論付けました。したがって、界面状態の制御やプロセス改良が、高忠実度動作において重要な手段となります。

今後は、バイアスクーリング等による界面トラップ状態の制御を用いた実験的検証を行い、その知見をデバイス設計へ応用するとともに、より現実的な大規模シミュレーションへ拡張します。

FACT BOX ・ 要点整理

  • 出典:PR TIMES
  • 分類:調査
  • 製品・サービス:シリコンスピン量子ビット / Si/SiGe量子ドット